9月25日 寺山修司

2010年9月25日 読書
病院で寝たきりの15歳の少女がいる。
少女は、海を知らない。
病院の少女に海がどういうものかを説明する時、
あなたならなんて説明をするだろう。

ぼくは海が、ことばでは言い尽くせぬほど広いんだ、
と言いました。
「海は直径12700キロメートルの地球の表面の
約70%を、わずか3.8キロメートルの厚さで
覆っている水の膜なんだ。」
と言っても少女はキョトンとするばかりでした。
と言っても少女はキョトンとするばかりでした。
「海は何しろ、真っ青なんだ」
ぼくは言いました。
すると少女は、
「青い水なんてほんとにあるのかしら」
と言って笑うのでした。
そこで、ぼくは少女に海を
「持ってきてみせてやる」
ことにしたのです。
五月の海に、ぼくはバケツをもって近づき、
なかでも一番青い部分を汲んできました。
大急ぎで駆け戻り、
「さあ、持ってきてやったぞ」
と病室に駆け込みました。
そして
「これが海だ!」
と言いました。
でも、バケツに汲まれた海は、
青くもなかったし、怒涛もありませんでした。
少女は、ぼくに「うそつき!」と言いました。
でも、ぼくは返す言葉もなく
途方にくれてしまったのです。
「たしかに、さっきまでは海だったのに!」



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